スコラ学,分節化,項

パノフスキーは初期および盛期スコラ学の第一支配原理として〈マニフェスタティオ〉(顕示.manifestatio)すなわち明らかにすること,明瞭にすることを挙げる(『ゴシック建築とスコラ学 (ちくま学芸文庫)』pp.46-51.).
トマス・アクイナスは以下のように述べる:「聖なる教え(神学)は,信仰を証明するためにではなく,この教えに示されているその他すべてのことを明瞭にする(manifestare)」ために,人間の理性を使うのである」(神学大全,第一部,第一問題,第八項,異論回答二).人間の理性は聖三位一体や受肉といった信仰のことがらについて直接に証明することはできない.しかしこれらのことを明らかに,明瞭にすることはできる.
そして理性によって信仰を明らかにするためには,理性そのものについて,その思想体系の完全性,自己完結性,限界性を「顕わにする」ことが必要とされる.このことは「推論の過程そのものを読者の想像力に明らかにするであろう文字による表現の図式によってのみ」なされた.そこからスコラ哲学の図式主義・形式主義が生じ,それは以下の3つの特徴をそなえた著作において頂点にたっした:
(1)全体性(十分な列挙)
(2)相同(ホモロガス)な部分と部分の部分との,一つの体系に従った配列(十分な分節化)
(3)明確性(ディスティンクトネス)と演繹的説得性
(2)(3)は,たとえば宗教的図像についての聖ボナヴェントラの弁明に示される:それら図像は「頭の悪さゆえに,感情の脆さゆえに,記憶の弱さゆえに」容認できるのである.
たとえば論文の構成にかんして,私たちは以下のことを当然と考える:論文は目次や要旨に要約できるような分割・細分割という図式にしたがって構成され,同じクラスの数字や文字(1.2.3.……,あるいは a.b.c.……)で表示された部分の論理的レベルは等しいとされる(「第I章第1節a小節」と「第IV章第5節b小節」とはおなじ従属関係を内蔵している).
しかし「スコラ学にいたるまでこの種の体系的分節化は知られていなかった」.そして論文が以下のような全体計画にしたがって構成されるようになったのは13世紀になってからのことである:全体は〈部〉 partes に分けられ,そして部は〈部分〉membra,〈問題〉quaestiones ないし〈区分〉 distinctiones に分けられる.そしてこれらは〈項〉articuli に分けられる.この〈項〉のなかで,いっそうの細分割をふくむ弁証法的図式にしたがって議論は進行し,あらゆる概念はその他の概念との関係に応じて複数の意味に分割される.そしてまたいくつかの〈部分〉〈問題〉〈区分〉はまとめられて一群を形成する(たとえばトマス・アクイナスの『神学大全』).

【スコラ学にかんして:id:somamiti:20060503】