Artikulation(2)

アーティキュレーション Artikulation, artikulieren( ← ラテン語,区切る) とグリード Glied, gliedern(区分けする,分節する,組織する) との関連におもいいたったのは,以下の箇所による:「肢体ある総合定立 artikulierten Synthesen」として,artikulieren の過去分詞(からなる形容詞)の訳として用いられた「肢体ある」という語が,そのまま gegliederten(gliedernの過去分詞からなる形容詞) にあてられている;肢体ある = gegliederten = artikulierten = 分節化された(ただしこうしたダイレクトな対応は他の箇所にはちょっとみあたらなかった).Artikulation は「分肢」と訳されている.アーティキュレーション = 肢(節)を分けること,グリード = 肢体:一つ一つの肢(節),というイメージをいだく.

【以下,この調子で長々と続きます】

「また別の新たな様態 modale 変化がそれに接続されるのは以下の場合である.そのとき定立は総合定立への単なる歩みであり,純粋我は新たな一歩を進め,そして今や,総合定立的意識に属する貫かれた durchgehenden 統一において,今まで把持していたものは,『なお』把持において『保有』されることになる:新しい主題的客観 Objekt を把捉し,もしくは総体主題に属する新肢体 ein neues Glied を主要主題 primäre Thema として把捉し,それでいて以前にとらえた肢体 Glied を総体主題に属するものとして保持している」.
ノエマ的には同一的意味としての「何」が存立を持続し,ノエシスの側面ではこの意味の相関者が,さらには定立ないし総合定立に従っての分肢の全形式 die ganze Form der Artikulation が存立を持続する」.
(下巻,p237. 第3篇,第4章,122節 肢体ある総合定立 artikulierten Synthesen の遂行様態,『主題』)

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以下の箇所ではじめて肢体 Glied の語が目にとまった.「肢体として規整(コンスティテュート)される」とはよくわからない表現だとおもう.また「肢体をもつ総合定立(ジンテーゼ)gegliederten Synthesen」という表現もある.「肢体をもつ(肢体づけられる gegliederten) = 高次段階の = 複定立的な」という表現.「肢体」を持つことは,どうやら,幾つかのバラバラのものが結合され,一つのまとまりをもつ構造物(ナナフシのような)として一つに総合されることと関係があるらしい.

「個々の体験のどれか1つをとってみれば,連続的な『根源的』時間意識において,現象学的時間のなかに広がる統一として規整されている」.この体験統一を規整する意識全体は,持続の体験切断部がそこにおいて規整される切断部から,連続的に合成される.したがって諸ノエシスは,一つのノエマをもつ一つのノエシスを規整する.このことは体験流全体にもあてはまる.それぞれの体験がどれだけ相互に疎遠であったとしても「それらは全体として一つの時間流として,すなわち一つの現象学的時間における肢体として規整されるのである」 sie konstituieren sich insgesamt als ein zeitstrom, als Glieder in der einen phänomenologischen Zeit.
(下巻,pp.223-224.第3篇,118節 意識の総合定立 synthesen,文章法的形式 Syntaktische Formen)

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「いま我々が関心をむけるのは,むしろ肢体をもつ総合定立,したがって断絶的に中断された作用が結合して肢体ある統一すなわち高次段階の総合定立作用の統一となるその独得の仕方についてである」Unser Interesse wenden wir vielmehr den gegliederten Synthesen zu, also den eigentümlichen Weisen, wie diskret abgesetzte Akte sich zu einer gegliederten Einheit, zu der eines synthetischen Aktes höherer Stufenordung verbinden. 連続的総合定立の場合,我々は『高次の作用』ということを言わない.……我々が以下に述べることの多くは「肢体ある――複定立的な――総合定立」gegliederte ―― polythetische ―― Synthesen とひとしく,連続的総合定立にもあてはまる. (下巻,pp.224-225.,同前)

【文章法的形式 Syntaktische Formenの訳は,「シンタクス」形式ないし「構文論的」形式の方がわかりやすいようにおもう】【総合定立 Synthesen = ジンテーゼ,措定 Setzen = セッティング,規整 Konstitution = コンスティテューション,本源的 = プリミティブ,など,きりがない】

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ジンテーゼの「肢体」ということから,次のような連想をする:ジンテーゼ(総合的な命題,たとえば文(命題),文章)の「肢体」とは,たとえば文を構成する個々の「語」や「句」,また「文章」を構成する個々の「文」のようなものだろうか.そのように考えると,以下の箇所はたとえば‘一つの’「文章」が表現する事態(「文章」の「指示対象」)と,その「文章」を構成する‘一つ一つの’「文」や「語」の「指示対象」との違いにかんして述べたものと読むことができるだろう.

肢体をもつ総合定立 gegliederten Synthesen すなわち複定立的作用 polythetischen Akten のすべての種類について,まず第一に,以下のことに注意すべきだ.すなわち,総合定立的 = 統一的な意識のそれぞれは,その意識に属する総体対象をもつ.
これは総合定立の肢体 synthetischen Gliedern に志向的に属するもろもろの対象と対立させて総体対象とよばれる.総合定立の肢体に属する対象はすべて,総体対象に与りかつ含まれているからだ.…….
総合定立的意識における総体対象が『対象的』というのは,端的定立において規整されるものが対象的というのとはまったく別の意味においてである.総合定立的意識やそこに『おける in』純粋我は対象的なものに多線的 vielstrahlig に向かう.一方,端的に定立的な意識は1本の線で in einem Strahl 向かう.それゆえ総合定立的集合 Kolligieren は『複数的』 plurales 意識である.すなわち「この意識は,1つ,1つ,1つと集められる」 es wird eins und eins und eins zusammengenommen. 同様に,本源的 primitiven な関係づける意識では,関係は二重の措定 Setzen において規整される.
総合的対象性のこのような多線的(複定立的 polythetischen )規整 Konstitution の各々は,多線的に意識されたものを,1本の線で端的に意識されたものへと転化させること(総合定立的に規整されたものを『単定立的』 monothetischen 作用によってスペシャルな意味で『対象的にすること』)が可能だという性質をもつ.……
(下巻,pp.226-227.第3篇,119節,複定立作用の単定立作用への転化)

「複定立的 = 多線的」は「単定立的 = 単線的」と対比的に用いられている:「肢体ある」「複定立的な」「多線的な」「総合定立」 ←→ (「肢体のない」)「単定立的な」「単線的な」「端的な定立」.
ここからあらためて「分節」と「肢体」について連想する:「分節化」「分節する」という言い方が,すでに「分節」に先だつ,未分化(未分節)な‘カルス callus’を想定しているようにおもえる. artikulierten ではなく gegliederten の語が多用されている理由は,そこにあるのかもしれない【グリードの場合――鎖の環を一つ一つ繋げてゆくようなイメージなのか?】

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以下の箇所では「単肢的命題」「複肢的命題」という表現があらわれる.ここで「肢」にあたるのは「グリード」 Glied である.読みすすめるうちに,どうやらそれぞれ「単項命題」「複項命題」と訳し換えて考えるとよいと感じた【たとえば「単項命題」は「Pである is P」(∃x(Px)),「複項命題」では「SはPである S is P」(∃x(Sx&Px))といったものだろうか】【量化子はかえって余計かもしれない.「Pである Px」と「Pであるxが存在する ∃xPx」】【なお『ゴシック建築とスコラ学』ではアーティクル articule の訳として「項」の語が用いられていた;アーティキュレーションとは「アーティクル付ける」こと,「分節化」とは個々のアーティクル(項)に区分けすること】

意味という語をたんに『質料 Materie』と定義し,意味と定立的性格との統一を命題と呼ぼう.「そうすると,単肢的命題 eingliedrige Sätze(知覚およびその他の定立的直観の場合のような)と,複肢的 mehrgliedrige すなわち総合定立的命題――たとえば述定的な信憑的 doxische 命題(判断),述定的に肢体づけられた質料 prädikativ gegliederter Materie をもった推量命題などなど――があることになる.
(下巻,p.272.,第4篇,133節 ノエマ的命題,定立的命題および総合定立的命題,表象の範囲における命題)

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ここで主な課題となるのは論理的意義ないし述定的命題,すなわち形式論理学の意味での『判断 Urteile』の,体系的 systematische な『分析的 analytische』形式論を立案することである.……
分析的-文章法的操作 die analytisch-syntaktisch Operationen は,……,あらゆる可能的意味もしくは命題にたいして可能な操作である.…….こうして生じた総合定立の形式(これは文法上の『文章論』die grammatischen "Syntaxen" にあわせて文章法的 syntaktischen 形式と名づけられている)は,完全に規定された,確固たる形式体系 Formensystem に属し,抽象によって durch Abstraktion 取り出して,概念的 = 表出的に把捉することができる.そこでは私たちは,端的知覚において知覚されたものを,「これは黒い,インクつぼだ,この黒いインクつぼは白くない,もし白ければ黒くない」といった表出をつうじて表わすようにして分析的にあつかうことができる.一歩進むごとに私たちは新しい意味を得る.すなわち,もとの単肢的命題のかわりに総合定立的命題を得るのである.「肢体ある命題の内部において,各々の肢体は,分析的総合定立に由来するそれぞれの文章法的形式をもっている」 Innerhalb der gegliederten Sätze hat jedes Glied seine aus der analytischen Syntesis stammende syntaktische Form.
(下巻,pp.274-276.,第4篇,134節 命題学的 Apophantische 形式論 Formenlehre)

これ以降,メモによれば「肢体」「肢体ある」「文章法」をそれぞれ「項」「分節化された」「構文論(シンタクス)」と読み換えて読み進めている.たとえば「単肢的」 → 「単項的」のように.

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なお参照した岩波文庫訳においても,Mittelglied については「媒介項」として,glied に「項」の語があてられている.

原的に originär 経験する意識のフレーム内における物の規整 Dingkonstitution im Rahmen の各々の段階・層は,それぞれの層に固有の統一を規整する.「各々の段階,およびその段階における各々の層は,それがその固有の統一を規整し,その統一はまた物の十分な規整に必須の媒介項 Mittelglied である,という性質をもつ」
(下巻,p.341.,第4篇,151節 物の先験的規整の諸層 Schichten der transzendentalen Konstitution des Dinges,補説)

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以下の箇所をみても,フッサールが用いる Glied の語には論理学における「項」としての意味あいも備わっているようにおもう.

なお,たしかに論理学的総合定立は端的なる質料(意味) Materien (Sinnen)に基礎をおく.しかしこのとき,総合定立的段階の本質的法則性,とくに理性法則は総合定立の肢体 Glieder という特殊な質料 Materien に非依属的である unabhängig sind .しかもこのことによって,普遍的でかつ形式的な論理学は可能なのであり,この論理学は,論理学的認識の『質料』を捨象し,それを,不定に,自由に変更できる普遍性において(『なにかあるもの』として)思考するのである.
(下巻,p.349.,第4篇,153節 先験的問題の全廣袤,研究の区分 Die volle Extension des transzendentalen Problems. Gliederung der Untersuchungen)

論理学のジンテーゼ【たとえば個々の命題(と論理規則)から構成される論理的推論】についていえば,その法則(論理法則)は「総合定立の肢体 Glieder という特殊な質料 Materien」に依存しない;論理学ではその『質料』(肢体)は捨象され,‘任意の変項゜とされる.