ゲシュタルト?

分裂病のはじまり」を一通り読了する.非常に面白かった.研究の内容もさることながら,研究をおこなううえでのスタンスに強く共感した:単なる自然科学的(生物学的)な研究とも,人文科学的研究(哲学的な,あるいは人生史との関連づけによる症状の解釈に終始する研究)とも一線を画し,精神病理現象そのものに内在する構造を明らかにしようとするスタンス.
とはいえ,読んでいて気になるのは,著者コンラートが「ゲシュタルト心理学」をたびたび参照していることだ.ゲシュタルト心理学について詳しいことは知らないが,なにやら過去の遺物という印象をもっている.もしもゲシュタルト心理学のもたらした知見が今日においては否定され,もはや通用しないものとなっているのであれば,「分裂病のはじまり」も今日においては過去の遺物でしかないのではなかろうか.

  • -

世界大百科事典には以下のようにある.
ゲシュタルト心理学 gestalt psychology:心理現象の本質はその力動的全体性にあり,原子論的な分析では究明しえないとする心理学説。19世紀後半の心理学は当時の自然科学をモデルとした要素還元主義・構成主義をとった.
1890年,エーレンフェルスはこのような機械論的構成主義のもつ欠点を指摘する:たとえばメロディは音階を1オクターブ上げても同じ印象を与える.ここには〈要素の単なる結合ではなく,それとはある程度独立した新しいもの〉すなわち〈形態質 Gestaltqualität〉がある.エーレンフェルスらはゲシュタルト心理学の先駆をなした.
1912年,ウェルトハイマーは仮現運動に関する実験的研究を発表した.これがゲシュタルト心理学の誕生である.ウェルトハイマー,ケーラー,コフカの3人は当時の構成主義心理学に対抗し,ゲシュタルト心理学を確立する.ゲシュタルト心理学
(1)心理現象が要素の機械的結合から成るという〈無意味な加算的総和〉を否定する.そして,心理現象は要素の総和からは説明しえない全体性をもつと同時に構造化されているとし,このような性質を〈ゲシュタルト Gestalt〉と呼んだ.そして構造化される法則〈ゲシュタルト法則〉を見出した;各要素はその全体性の中で説明されるのであって(部分の全体依存性),その逆ではない.
(2)刺激と知覚との1対1の対応関係(恒常仮定)を否定する.そして,刺激は全体的構造の枠内で相互の力動的関係の上から知覚されると主張する.このような全体的力動的構造の概念は,当時の物理学の場理論の影響を否定しえないが,ケーラーの心理物理同型論やレウィンのトポロジー心理学説へと発展していった。
ゲシュタルト心理学は心理学のあらゆる研究領域にわたって大きな影響を与え,心理学の主要な潮流となったのみならず,精神医学や神経学など隣接科学にも影響を及ぼした。日本も例外ではなく,昭和の初めから第2次大戦後にかけて隆盛をきわめた。

              • -

日本も例外ではなく,昭和の初めから第2次大戦後にかけて隆盛をきわめた――として,その後,ゲシュタルト心理学はどうなったのだろうか.とくにゲシュタルト心理学で用いられる「場の力学」などの比喩はどれだけ有効なのだろうか.こうした比喩は『分裂病のはじまり』でも用いられていて,そうした箇所にはやはり違和感を覚えるだけに気にかかる.

      • -

なお,web上で検索をかけるとゲシュタルト心理学から派生した理論としてアフォーダンス理論の名が記されており,興味ぶかい.

参照:http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya1079.html