超越論的/超越的

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超越論的 transzendental な認識とは,「対象に関する認識ではなく,私たちが一般に対象を認識する仕方に関する認識」【B25】である.対象の認識やその正誤といった具体的な,オブジェクトレベルではなく,そのメタのレベル,すなわち「一般に,我々が対象を認識することはどういうことなのか,それの根本的条件や構造はどういったものなのか,という次元」にかかわることが〈超越論的〉とされる(純粋理性批判入門 ISBN:4062581922 ,p.98).「超越論的」とは,現に成立していること(現象や経験)はさておき,その「成立根拠」を問おうとする態度,またその「成立根拠」にかかわる事柄につけられる形容詞といえるだろう.transzendental はまた「先験的」と訳される.現象や経験の「成立根拠」はまた,それによって成立する現象すなわち経験される事物にたいし‘先立つ’ことになる.超越論的 = 先験的というのは,およそこうした考えにもとづいてのことだろう【それゆえ,「先験的に」は「経験の限界を越えて」の意味ともなる B353】

超越的 transzendent と超越論的は同一ではない【B352】.「超越的」とは,たとえば「その適用が可能的経験の限界を超出するもの」である【B351】.純粋悟性の原則は経験可能な事柄に‘内在的 immanent’に適用される.それに対して,超越的原則は経験可能な範囲を越えた領域にまで適用されることを要求する(それゆえ,その原則の当否を吟味する基準はない).そして,超越論的仮象は超越的原則にもとづく【B351-352】.

超越論的仮象は人間の理性にとって自然で不可避な‘錯覚’である:人間の認識能力の1つである理性は主観的な原理をもつ.その原理は客観的原則そっくりの外観を具える【主観にとって,主観的原理は客観的原則と同じように,個別的経験の如何によっては否定し得ない性質を具えている――といったことか?】.それゆえ悟性(思考力)によってある概念が必然的に結びつけられると,そうした概念の結びつきは主観的な必然性しかもたないのに,それを物自体についての客観的な必然性をもつ規定と見なしてしまう.これは人間にとって避けがたい錯覚である【B353-354】

仮象について:主観との関係において対象に帰された性質を,対象自体の性質とすることから仮象が生じる【「〜〜のように見える」ということを,対象その物の性質にしてしまう】【B69-70注】

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天狗が天狗であるためには説明は破綻してはならない.さもなくば自分と世界が壊れる.生きることが内蔵する不信と恐れが顔をだす.
大日本天狗党絵詞 ISBN:4063141500