流出 - 断片集

（参考：「新プラトン主義」『岩波哲学・思想事典』，他）
ネオプラトニズム的な意味での「流出（発出，進出）」のもとにある語は emanatio（ラテン語）， pro Hodos（ギリシャ語：Hodos =‘way, path’）という語のようである：
「流出」はプロティノスを始祖とする新プラトン主義の中心概念の一つである：「〔ありとあらゆる存在の〕各階層は，より上位の原理から無時間的に〈派生〉（〈流出〉emanatio）する．太陽が光線を発し，泉が水を涌き出すように，存在は自己の完全性に従って自らの力を減ずることなく自己の外部に自己と類似したものを産み出す（プロクロス『神学綱要』26-27）という主張は，プラトン以来のギリシア的〈存在〉理解の集約的表現である」（「新プラトン主義」『岩波哲学・思想事典』）
プロティノス『エンネアデス』によれば，ありとあらゆるものは上から下への一つの流れをもつ．それは‘一者 → ヌース → 魂 → 物理的世界’という階層をなす．この階層は一種の因果系列であり，かつ価値の系列である．この特殊な因果関係は〈流出〉（発出，進出，emanatio）とよばれる．このとき，ＡからＢが発出してもＡの力【ポテンシャル】は減少しない．そして「Ａから発出したＢは，立ち止まってＡへと向き直り，Ａを観照することによって，Ａの模造品として形成される．発出後もＢはＡとつながっている」（「エンネアデス」『岩波哲学・思想事典』）．

流出の究極原因は感覚でも想像でも直観でもとらえることはできない．これは便宜的に〈一者〉（to Hen, the One）ないし〈善〉（to Agathon，the good）とよばれる．一者にはあらゆる意味で部分も区別もない．「だから一者は絶対的に単一で，何ものでもないのだが，しかもすべてのものがそこから発出する力である．およそ何かであるものは一つのものであるが，その統一性は一者に由来する」とされる．

個物の存在と一者（あるいは善のイデア）に関して：
「二が生ずることの原因は『二』を分有するということであって，それ以外の原因はない．二になろうとするものは『二』を分有しなければならず，一になろうとするものは『一』を分有しなければならないのだ」『パイドン』101C．
善のイデアは認識の成立に不可欠な「光」をもたらす「太陽」にたとえられる：「思惟によって知られる世界において，〈善〉が〈知るもの〉と〈知られるもの〉に対してもつ関係は，見られる世界において，太陽が〈見るもの〉と〈見られるもの〉に対してもつ関係とちょうど同じなのだ」『国家』508C．「認識される対象には真理性を提供し，認識する主体には認識機能を提供するものこそが，〈善〉の実相（イデア）にほかならない」508E．〈善〉は認識の対象となりうるが，それは知識と真理の原因（根拠）であり，この両者とは似て非なるものだ．「光と視覚を太陽に似たものとみなすのは正しいけれども，それがそのまま太陽であると考えるのは正しくなかったのと同じように」『国家』509A．

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ドイツ語では flossen が「流出」に対応する語のようだ； ablaufen を単に思いつきで「流出」と訳すわけにはいかない．たとえば『純粋理性批判』には以下の文章がある．英訳では flow（原書では flossen）の語が「流出」として訳されている：

プラトンにあっては、イデアは物そのものの原型であった、またカテゴリーと同じく可能的経験を成立せしめる要件であったが、しかしそれぱかりではない。彼の見解に従うと、イデアは最高の理性から流出して、人間理性に授けられたものである、ところが人間理性はもはや本来の純粋な状態にあるのではない、そこで我々は、今となっては極めて不分明な古いイデアを追憶によって呼ぴさまさねぱならない、と言うのである．（岩波文庫版，中巻，p.32）
Ideas are, according to him, archetypes of things themselves, and not merely keys to possible experiences, like the categories. In his view they flow from the highest reason, by which they have been imparted to human reason, which, however, exists no longer in its original state, but is obliged with great labor to recall by reminiscence――which is called philosophy――the old but now sadly obscured ideas.