アメリカ

だいたいお姉ちゃんはおこりんぼだと思う.お姉ちゃんは,なにもかも気に入らないんだ.お姉ちゃんの気に入るものなんて,このアメリカには一つもありはしない.みんな日本にあるんだ.「美しくて歴史の深い」日本にね.
江國香織こうばしい日々 (新潮文庫)」)

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老人と海 (新潮文庫)」は面白かった.本編もさることながら訳者解説がとりわけ読み応えがあった.訳者の名前は福田恆存とあり,そういえば図書館で著書をみたおぼえがある.

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訳者解説がおもしろかったので要約を試みた.文章をまとめてゆくうちに色々と違和感や疑問もうまれた.おもしろさを感じ,興奮していた理由がわからなくなりもした.おそらくはアメリカが分かった気分になったのだろう.
論旨をまとめると以下のようになるだろう:ヨーロッパには歴史がある.個々の時間の累積がうみだす各々の差異(個性)がある.アメリカには歴史がなくてだだっぴろい空間があるだけ.その空間のなかに個性(歴史・経歴の違い)のない同じような人びとが住んでいる(実態はどうあれ,それがアメリカの人間観である).そのことがヨーロッパ文学とアメリカ文学の違いとなる.ヨーロッパ文学における個性や精神の重視と,アメリカ文学における個性や精神の不在・肉体や行動の重視としてあらわれる(だからアメリカ文学通俗的になる).
【いまとなっては馴染みがありすぎて違和感さえ感じる論旨であるようにもおもう.陳腐化するほどに古典的な見解なのかもしれない】.あらためて感じたのはこうした論の是非を云々するほど自分はアメリカを知らないということだ.【そもそも日々の生活を送っている日本だってどうかわからない.わからないといえば毎日使っている胃や腸のことだって実のところわかってはいない.少しは勉強をつみ重ねて,それは少しはわかってはいるのだろうけれども,それはどこまでもイメージや抽象化から無縁ではいられない】.ここで少しばかり明らかになったのはモデルとしてのアメリカ,自分が知らず思いえがいていたアメリカ,標本としてのアメリカだろう.

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