月の裏側

純粋理性批判のなかに月の自転に関する天文学者の論争が紹介されていた.1つの対象(問題)について異なった立場から観察ないし考察することによって,同じ前提(観察データ)から矛盾する結論が導かれうることの例として.

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常識は一つの対象を二つの異なる立場から考察するために、しばしば自己矛盾に陥いることがある。ド・メラン氏は、二人の有名な天文学者の論争を甚だ注目に値する現象であるとし、これについて独立の論文を草するに足るとさえ考えた。その論争というのは、やはり立場を選択するに際して生じる同様の困難に起因する。つまり一方の天文学者は、月は地球に常に同じ側を向けているから、軸を中心にして自転すると推論した。ところが他方の天文学者は、月は地球に常に同じ側を向けているから、軸を中心にして自転するのでない、と推論したのである。この両つの推論は、月の運行を観察する立場の取りようによって、いずれも正しかったのである。
純粋理性批判岩波文庫,中巻,pp.139-140

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前提:「月は地球につねに同じ側を向けている」
結論A:「月は軸を中心にして自転する」
結論B:「月は軸を中心にして自転するのではない」
AとBはいずれも正しい.この違いは,月の運行を観察する立場の違いによってもたらされる.

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一読して疑念を抱きました.‘月が自転するわけが無いだろう’とおもったのです.もし月が自転していれば,月をみればいつだって同じ面をみることができるということの説明がつかないのではないか.
しかし少し調べたところ思い込みに反して「月が自転する」というのが科学的に正しいことのようでした.Web上のいくつかの解説をみてそれなりに納得がいきました.
【自分がグルグルと回転している.そんな自分を見守っている人がいる.その人はいつもこちらを向いている(回転していない).だからこそ自分が一回転するたびにその人と目が合うのだと思っていた.しかし実はその人はゆっくりと自分の周りを動いているのであり,その動きにあわせて自分のほうに顔を向けなおしてくれていたのだ(回転している)】.

参考url:http://www5e.biglobe.ne.jp/~hakuga/tukiziten/tukiziten.htm
(知識の泉〈http://www5e.biglobe.ne.jp/~hakuga/index.htm〉内)

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夜、知人と会う機会があったので、‘月は自転しているのか,していないのか,どちらだとおもう?’と尋ねてみました.結果,‘自転していない派’がソマミチを含め2人.あとの6人は‘自転している派’であり,「常識だよ」「小学生のときに教わった記憶があるよ」「教わった記憶はないけど,考えてみればわかるよ」とのことでした.あらら.

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【しかしそれでは,「月は軸を中心にして自転するのではない」 という結論が正しいものとして導かれる視点の設定(観察する立場のとりよう)とはいかなるものなのでしょうか.疑問です】