目的因

アリストテレスは物事をあらしめる原因を4つに分類する.1)形相因 formal cause:それはそもそも何であるか(Aの本質はなにか,そもそもなにゆえにAがAであると説明できるのか),2)質料因 material cause (なにからできているか,質料),3)作用因 efficient cause(物事の動きの始まり.始動因とも),4)目的因 final cause(それはそもそも何のためにあるのか).アリストテレスは目的因はすなわち「善」であるとする.「というのは善は物事の生成や運動のすべてが目ざすところの終わり(テロス,すなわち目的)だからである」(「形而上学岩波文庫 上巻,p.30)

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「物事の生成や運動のすべてが目ざすところの終わり」とはすなわち死ではないか.とすれば死こそが善であり目的なのだ.なにもないところからやって来てなにもないところへと帰ってゆく.それが人生なんだ.人生なんて所詮はそんなものだ――と考えることもできるのだろうけれどもわれながら安易だとおもう.死こそが目的なのだから生まれてすぐ死ぬことがもっとも無駄のない人生なんだ.人生なんてただの気晴らしにすぎないんだ.どうせみんな死んで消えて無くなってしまうのに.すべては無駄なんだ.
(そう.それで?)

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『これは女神アナンケの姫御子,乙女神ラケシスのお言葉であるぞ.命はかなき魂たちよ,ここに,死すべき族(やから)がたどる,死に終わるべき,いまひとたびの周期がはじまる.運命を導くダイモーン(神霊)が,汝らを籤で引き当てるのではない.汝ら自身が,みずからのダイモーンを選ぶべきである.第一番目の籤を引き当てた者をして,第一番目にひとつの生涯を選ばしめよ.その生涯に,以後彼は必然の力によって縛りつけられ,離れぬことができぬだろう.(中略)
 責めは選ぶものにある.神にはいかなる責もない』