アトロピン

ベラドンナはマンドラゴラと並んで,古くから〈悪魔の草〉と呼ばれ,その強い毒性が恐れられた.イタリア・ルネサンス期にはベラドンナ(bella donna = 美しい淑女(伊))と呼ばれるようになった.ベネチアなどで女性がベラドンナの汁を化粧用に使ったからだといわれる(点眼して目を美しく見せる.散瞳作用によると考えられる).ボルジア家が栄えた時代には,毒殺に最も多く利用される草として有名だった.花言葉は〈なんじを呪う〉〈男への死の贈物〉.
ラドンナは古代から毒薬として知られていた.ローマの毒殺者ロクスタは皇帝クラディウスの暗殺に用いた.属名である Atropa はギリシア神話の運命の女神(モイラ Moira,複数形は Moirai)の一人アトロポスAtropos にちなむ.モイライはクロト Klotho(つむぎ手),ラケシス Lachesis(配り手),アトロポス Atropos(変えられない者)の3姉妹からなる.彼女たちはひとりひとりの人間について,人生のさまざまのできごとから寿命にいたるまで運命のすべてをその誕生時に定める.クロトが運命の糸をつむぎ出し,ラケシスが運命を割り当て,アトロポスが死の瞬間にその糸を断ち切るとされる.

参考:世界大百科事典(平凡社)の「べラドンナ」「モイラ」の項など.