salt

講義でのこぼれ話が面白かったのでメモ.

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ヒトの体にはレニン-アンギオテンシン-アルドステロン系(RAA system)と呼ばれる仕組みがある.おおまかにいえば体内のナトリウム(Na)と水分とをともに保つためのシステムである.
ヒトをはじめとする生物の体液,とくに細胞をとりかこむ液体(細胞外液,たとえば血液や組織間液)の成分は海水に類似している.個々の細胞レベルの視点からすれば,海水の中を漂う単細胞生物だったころの環境が,そのまま多細胞生物の体内において再現されていることになる.ともあれ,そうした生物の細胞外液にはNaイオンとClイオンとが主に含まれる.一方,細胞内の液体には,陽イオンとしてはカリウム(K),陰イオンとしてはリン酸イオン(HPO4-)および負の電荷をもつタンパク質が主に含まれる.細胞膜を隔ててのイオン組成の濃度差が細胞膜に電気的な性質をもたらす.生体がその機能を営むうえでは,細胞内外の液体におけるイオンやpHのバランスの保持が必要条件となる.
陸上で暮らしている生物は,海水中で暮らしている生物と異なり周囲の環境から容易にNaを補充できるとは限らない.そこで,陸上で生活する生物はNaの喪失を少なくするシステムを発達させた【そのようなシステムを具えた生物だけが生き残ることができた】.そのシステムの1つがRAAシステムである.

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塩(NaCl)が生体の維持のために必須であるということは,草食動物が塩を欲しがる(salt craving)習性にあらわれている.肉食動物では餌となる動物の血液に大量のNaが含まれている.一方,草食動物の場合,餌となる植物に含まれる‘体液’は基本的にKを大量に含み,Naをさして含まない細胞内液である.そこで,草食動物は不足しがちなNaを補うために塩(岩塩など)を舐めるという習性をもつと考えられる.
ヒトにおいても塩は貴重な品であり,たとえば給料を意味する英語のサラリー salary は塩の支給を意味するラテン語のサラリウム salarium に由来している.また‘塩尻’や‘ザルツブルク(Salzburg = 塩の町,塩の城)’など塩の名を冠した町が今に至るまで残っていることは,塩の取引の重要性を示唆している.

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ちなみにヒトが必要とする塩分摂取量は1日当たりおよそ3gである.一方,昨今の日本人は地方によっても異なるが1日あたりおよそ10〜20gの塩分を摂取しているとされる.なお高血圧の方の塩分摂取量は1日6g以下に制限される.

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以上が講義で聴いた話.ザルツブルクとはモーツァルトの生地で夏にはザルツブルク音楽祭が催されるあのザルツブルクなわけですが,百科事典でしらべたところ,ザルツブルクの名前の由来は町の中央を流れるザルツァハ Salzach 川に由来するそうで(ザルツァハブルク Salzachburg,縮めてザルツブルク),‘ザルツブルク = 塩の町’という点についてはチトあやふやです.