now-here

心理療法のなかにゲシュタルト療法というものがある:
ゲシュタルト療法は精神科医のF.パールズとその妻ローラにより創始された.ゲシュタルト心理学実存主義の思想,さらには禅の体験と関連をもつ.パールズの思想にはエーリヒ・フロム鈴木大拙の影響も色濃く見られる.「ゲシュタルト」(Gestalt)はドイツ語で「かたち」「形象」をいう言葉であり,直接は「ゲシュタルト心理学」から由来した言葉と思われるが,その意味づけは参禅体験などと深くつながっている.ゲシュタルト療法では過去になにをしたか,それはなぜなのかを問うことはしない.「今・ここ」で「いかに」話しているか,「なにを」話しているかを問題にする.それを気づき,体験することからひいては全身全霊的な気づき,覚醒を目指し,そこで自分自身であるという自由を取り戻すことを目的とする.やり方としては構成的エンカウンターとして行われることが多い(参照:フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』)
【数年前,パールズの心理療法を収録したビデオをみた.禅とかかわりがあるといわれてみれば,パールズの介入のしかたは禅僧のそれを思わせるところがあるようにも思える】【なお,ゲシュタルト療法とゲシュタルト分析との関連はとりたててありません】.
ゲシュタルト療法では「今・ここ」で「いかに」「なにを」話しているかを問題にする(我と汝,いまここに).その点においてゲシュタルト療法とシステム論的家族療法は共通していると感じる:「今・ここ now-here」(過去ではなく現在)において「いかに how」「なにを what」ということへの気づき――現状において自らが属しているシステムの作動様式についての自覚,そのことが,問題(症状)産出的なシステム作動様式の,変容の契機あるいは手段となる.

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【心の深いところにある感情(あるいは無意識の欲望)や過去の出来事(あるいは過去のトラウマ体験),それらはもちろん家族や個人の現在のあり方を規定するものであるだろう.しかし,問題となるのはあくまで現在のことである.ならば現在のシステムのあり方を変容させればよい.原因として想定された無意識の欲望やトラウマをとり扱う必要はない】【このような考えは行動療法,とりわけ認知行動療法にも共通していると感じる】
【しかし,トラウマや無意識の欲望あるいはコンプレックス(観念複合)を問題視しその自覚をもたらすこと,トラウマや欲望との関連において現在の自分のあり方を解釈することもまた,自分という‘システム’の作動様式を自覚すること,それによりシステムを変容させ,異なった作動様式を発動させることである――と解釈することもできる】

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先日,神経症とそれにたいする精神療法にかかわる質疑応答があった.それによると近年では典型的な神経症の症例は減少し,かわりに人格障害解離性障害の症例が増えているという.それとともに患者さんのあり方も変化し,以前は「このような精神的な症状があるのは,どこか自分の心に問題があるに違いない」と悩む方が主だったのに比べて,近年では「とりあえずこの症状があると困るから,症状を取り去ってくれ」というスタンスの方が主流であるらしい.