背景

▼時代:カント(1724-1804,純粋理性批判第1版1781,第2版1787)の時代 = 18世紀末から19世紀にかけて.ヨーロッパでは政治システムの近代化がなされつつあった(例:1789年のフランス革命).その状況下において,個人の自由(生命・身体・私的財産の所有・処分権など),人類に普遍的にそなわる理性(合理性,人間性,判断と行動の主体としての能力――自由を裏打ちする能力),等しく理性を具えたものとしての人類の平等,といった理念が形成されつつあった【それはさらなる「近代化」の原動力の1つとなるだろう】.
▼思想:啓蒙思想や自然科学の展開,大陸合理論(デカルトなど)とイギリス経験論(ロック,ヒュームなど)との対立.合理論は実体や因果性などの概念について分析し,それに論理的推論(演繹)を加えることで宇宙や無限(神),人間について知ろうとする.一方,経験論は経験的な――実験・観察による――データの複合や抽象(帰納)のみを認識の土台として認める.そして自我や実体などの概念や因果法則などはあくまで経験や習慣の産物だとする.合理論的アプローチは濫用されると経験を超えた事物(神の存在や魂の不死)をも‘証明’によって確実と断定する独断論に陥る.一方,経験論はラディカルに行き過ぎると実体や同一性,因果法則すらも虚構(フィクション)にすぎないとして自然科学の土台をゆるがす懐疑論となる.
▼展開:こうした状況のなかで,カントは合理論と経験論を調停し,自然科学を擁護し,理性の自律と人間の自由を確保しようとした(純粋理性批判).カントはさらに認識,道徳,芸術という人間活動の諸分野の原理を区別し,各分野の独立性の確保を試みる(実践理性批判判断力批判).それに対し,カントの哲学は認識する自我と倫理的に行為する自我をバラバラにするものだといった批判的考察からフィヒテシェリングヘーゲルは自我を統合する原理を求め「ドイツ観念論」をうみだした.そして,ヘーゲルにたいする批判から,今度はショーペンハウアーキルケゴールフォイエルバッハなどの思想が生まれることになる.