追記:想起説の証明

『メノン』では想起説の実験的な証明がおこなわれる:
ソクラテスはメノンの召使を相手に問答をおこない,それによってその子が‘正方形Aの2倍の面積をもつ正方形Bの一辺の長さは,Aの対角線の長さに等しい’という答えを自らの中から導きだす過程を示してみせ,それを想起説の証明とする.「それは,誰かがこの子に教えたからというわけではなく,ただ質問した結果として,この子は自分で自分の中から知識を再び取り出し,それによって知識をもつようになる」のであり,「自分で自分の中に知識をふたたび把握し直すということは,想起するということにほかならない」のである(『メノン』85D).
この証明では「「質問するだけで教えなかった」ことが幾度も強調されているにもかかわらず、召使の子が問題の正しい解を発見するに至るのは、ソクラテスの誘導的な質問と、画かれる図形の助けによるところが大きいことは疑いない」.しかし大切な点は「まったく幾何を教えられたことのない者が、各段階においてソクラテスの質問が指示するところを理解して答えることができること、彼自身のそのような理解にもとづいて正しい解へ導かれることが可能であったということ」である.
ここでの証明の当面の目的は「本格的な知識以前の‘思わく’」があらかじめ備わっていることを示すことにあった.そして「このソクラテスと召使の子との問答は、その進行の経過がちょうどそのまま、"知"の思いこみ――アポリアーと無知の自覚――探求の再出発――発見(想起)という、ソクラテス的な対話・問答のあり方の典型的な過程を示していて興味ぶかい」(藤沢令夫の解説より)

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