ダブルスタンダード

人間は心をもっている.そうしたものとして日常の生活を営んでいる.

‘心理現象はすべて物理現象に還元できる(それゆえ,心についての科学は分子生物学や生化学,究極的には物理学に統合されるべきだ)’という考えをもち,そのような研究に従事している人も,日常生活では自分や身の廻りの人が心をもっていることを前提して生活している(他人の心を前提しない生活なるものは,少し想像がつかない).

【「心」を前提しての他の個体の行動の予測,また「心」による自己と環境の相互関係そのもののモニタリング,そのような機能が生存に有利に働いたからこそ,ココロという「錯覚」を生みだす生体の仕組み(ひいては物の配置)が現在に至るまでに進化し,そして残ってきたのだ――という論がふと思いつかれた.しかしココロが「錯覚」であるという前提から,ゆえにココロは存在しないという帰結を導くことには抵抗がある.――ココロが「錯覚」であるのならば,それでは‘本当は’どのような物事を知覚するべきなのだろうか】

(それが錯覚であるにせよ,スクリーン上の投影(幻影)であるにせよ)心的な物事には物質のレベルに還元不可能なそれ独自の性質ないし法則が具わっているようにおもう.
その一方,心の現象を物理現象に還元して説明しつくそうというアプローチにも説得力や魅力を感じてはいる.