ライ麦畑でつかまえて
『ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス)』を読む.なんというか,きれいな情景を喚起させてくれる小説は好きだ.とくに語り手ホールデンの妹のフィービーが回転木馬にのってまわりつづけるその情景.「ただ,フィービーが,ブルーのオーバーやなんかを着て,ぐるぐる,ぐるぐる,回りつづけている姿が,無性にきれいに見えただけだ.全く,あれは君にも見せたかったよ」.この言葉で回想は終り,そうして語り手の現在は示唆されるだけで‘この小説’もまた終わる.
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回想のなかで幾たびか,ホールデン少年は西部だかテキサスだかに旅立つことを語る.
「ホールデン少年はいつどのように旅立つのだろうか.無事に旅立てるのだろうか」などとドキドキしながら読みすすめることが楽しかった。
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作中ではたびたび精神分析が言及される.そのとり扱われ方は,精神分析イコール精神の適応のためのツールといった風情であるが,アメリカにおいて精神分析が自我心理学(エリクソンの‘アイデンティティ論’など)や自己心理学(コフート)などとして展開したことを考慮すると,たしかに的を得たとり扱われ方であるようにおもう.