薬と受容体のイメージ

ヒトなどの多細胞生物は細胞たちからなっている.そうした細胞たちが何らかの関係をとりもつことで全体として一つの体がなりたっている.一方,多細胞生物の体は‘水’で満ちている〔成人男子で体重の60%〕.細胞の外は‘水’で満たされ〔細胞外液:体重の40%〕細胞の内もまた‘水’で満たされる〔細胞内液:体重の20%〕.そうした‘水 = 海’のなかにあって個々の細胞は‘脂’の膜〔リン脂質二重層〕をもつことで内部の‘水’と外部の‘水’とのコンタミを防いでいる.細胞膜によって細胞は閉ざされ独立したシステムとなっている.
1つ1つは独立した細胞たちが全体として1つのシステムとして作動する.そのためには細胞たちのあいだで何らかの‘コミュニケーション’が必要となる.1つの細胞において生じた変化によりそこから‘何か’が発される.そうして発された‘何か’が他の細胞にキャッチされ,その細胞に何らかの変化をひき起こす.そこにおいては情報が伝達されている――といえる.とすればその‘何か’はすなわち‘メッセンジャー’である.ホルモンや神経伝達物質,インタロイキンといった物質〔生理活性物質〕がそれである.一方,そうしたメッセンジャーを受けとるための場所を受容体(レセプター,receptor)とよぶ.メッセンジャーと受容体は‘カギとカギ穴’の関係にある:ある‘カギ’はそれに対応する形の‘カギ穴’にしか使えない〔特異性〕.
多細胞生物において個々の細胞はホルモンや神経伝達物質などの伝達物質およびそのレセプターを介して情報をやり取りし,ネットワークを形成する.局所における変化はそれと関係をもつ場所に何らかの変化をひき起こしうる.それによる変化の連鎖が細胞のレベルから組織や器官のレベル(会社組織でいえば一部の部署での変化)にまで波及すると‘虫刺されの場所が赤くなった’‘血圧があがった’などの現象としてあらわれるだろう.さらに個体レベル(一個の会社全体)での変化に至ると‘胸がドキドキして不安で,そういえば食欲もないし,どうしよう’といった現象としてあらわれる.いわゆる‘病気’もまたそうした現象といえよう.