犬の幾何学(1)

――という私の思惟や認識がすでに既存の学を基盤として成立している.その認識の基盤にある学はまた,その学を含む時代におけるコモンセンスや方法論から利益-関心 interest や束縛を受けとっている;学を内包する「世界」を基盤として成立する.さて‘このような批判的思考は厳密に批判的な学が成立するより過去には不可能であった’と(この)私は(現在)考える.この「私の考え」そのものがすでに(この)私をふくむ(現在の)世界を基盤として成立している.それゆえ(この)私-たちもまた数百年後において同様の批判【私的な認識の基盤としての学,さらのその基盤としての「世界」のことを忘却している】をうける可能性がある――と「ここ」まで考えた時点において,この〈客観意識〉そのものがこの私をふくむ(現在の)世界における(特有の)思考法であり,それゆえ数百年後には〈客観性〉の欠如を指摘される可能性がある――と(この)私は考える.しかしながら,それをまさに思惟している「意識」そのものを思惟の対象とするとき,(この)私は「わからない」という眩暈に襲われる.(霧間鷹二郎「再帰的関数と固定指示子」『犬の幾何学』)

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