内面と界面 → 内言と外言

ピアジェは子どもの思考の特徴を自己中心性におく.自己中心的な思考は,周りの物事にはすべて自分が関係しているという認識に端的にあらわれる.たとえば母親が「頭が痛い」というと,子どもは「お母さんの頭が痛いのはわたしのせい?」などと尋ねたりする.
自己中心性とは,《自分と他人との違いの意識が未分化なために,自分も他人も同じという立場でものを考えたり,行動することをいう》.その具体的な例が,アニミズム,すなわち全てのモノはワタシとおなじように生きていて,感じるココロをもっているという考え方だ.たとえば人形を自分の分身のように感じるとき,そこにはアニミズム的心性があらわれている.
幼児の自己中心的な思考を知るためにピアジェが行ったのは,「高さ」「大きさ」「色」 の異なる3つの山が配置された模型(ジオラマ)をもちいた実験だ.その模型の“東・西・南・北”のそれぞれの地点に人形をおき,その人形の視点から模型(あるいは風景)をみたとき,どのようにみえるかを被験者である子どもに尋ねた.結果は,4〜5才児では人形の位置にはかかわりなく,自分の視点からみた風景を人形もまたみていると判断した.見る位置によって見え方が変わることに気づくには7〜9才頃,どのように見えるのかを適切に判断できるようになるのは9〜10才以降だという.
【自己中心性の指標となるのが,視点の“代入”の能力であるという点が興味ぶかい】

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発達心理学では「内言」と「外言」の区別をする.内言とは思考のための「内心」の言語であり,外言とはコミュニケーションのために声に出して表現する言語である.考え事をしているときに独り言をつぶやく癖のあるヒトの場合,内言が「内心」にとどまらず,なかば外言化されていることになる.
ヴィゴツキーは子どもの独り言を問題を解決するための言語だと考える.子どもは独り言によって自分自身と対話をおこなう.それによって次の行動を計画する.
ときに子どもは集団内でも独り言をいう.集団内での子どもの独り言について,ピアジェはそれを集団内独語と呼び,他者の反応を考慮にいれていない自己中心的言語であるとした.
一方,ヴィゴツキーは,集団内独語が他者の反応を何らかの形で考慮にいれている,という可能性を指摘する.
4歳前後の時期にはピアジェのいう自己中心的言語(独語)が多くみられる.これは形式的には外言だが機能的には内言といえる.5〜6歳頃を境として,内言と外言の機能分化がはじまる.社会的な伝達の手段としての外言と,自己に向けられた思考活動の手段としての内言に.
発達心理学 (図解雑学)
関連:ピアジェ『児童の自己中心性』『思考の誕生』、ヴィゴツキー『思考と言語』上下

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なお,ピアジェは数の概念の発達について研究している.事物が変形しても性質は同一であるという判断を支えている概念をピアジェは「保存」とよぶ.たとえば以下のような実験がある:同数のオハジキを2列に並べて同じ数であることを確認させる.それから片方のオハジキの間隔を変えて並べかえる.1対1対応については5歳くらいになると同じ数だと認識できる.しかし並び方を変えたのちにも数は同じ数だという数の「保存」を理解するのは6〜7歳になってからである.